これからの海事教育

STCWをクリアーするだけが教育の目的であってはならない

海運産業を中核とする海事社会は、もとより国際的である。海の道は世界につながっている。貿易の相手は外国であり、船は外国の港間を行き来する。外航海運をはじめその周辺を取り巻く海事関連産業は、一国のみの経済活動にとどまるものではなく、常に国際社会と深いつながりをもつ。

FOC船の増加、外国人船員の配乗など外航海運の国際化が著しい昨今、船上でも陸上でも現場で働く人々は、国籍の異なる外国人とともに仕事に従事する機会が多くなっている。それゆえ、国際共通語である英語に堪能であると同時に、深い異文化理解のもとでのリーダーシップ発揮が期待されるなど、人間関係のなかでもよりいっそう国際性を意識しなければならない。

また、国際貿易に従事する船舶に科せられる最も基本的な責務は、安全運航の達成と海洋環境保全への貢献である。個々の船舶が国際社会の一員としてこの義務を果たすため、IMO(International Maritime Organization)は、世界共通の法や条約を定めて、世界各国と連携を取りながら国際規範を策定・推進する中心的機能を果たしている。
さらに、海上や港湾でのテロ問題や海賊問題など、海運活動の安全を脅かす課題には、自国一国のものとしてではなく、国際的な問題として解決に取り組まなければならい。いまや海事に関わる安全、防災、環境問題は、世界規模、地球規模へと拡大している。

このように海事分野で働く人材には国際性の意識が強く要求されるが、そのような人材は、世界各国の海事教育機関において養成されている。しかしながら、これらの海事教育機関の多くは、STCW条約をクリアーすることを目的とした教育訓練を実施することに終始するにとどまっている。

 

2010・STCWマニラ改正を転機となせ

おりしも2010年STCW条約マニラ会議において2017年には従来の船員の能力要件に加えて安全に関するマネジメント能力の付加が義務付けられることになった。このことに関しては、おそらく誰もがBRMの研修訓練の実施だけにしか目が及んでいないようだが、日本のように海事先進国においては、この決議を、安全マネジメント以外に、国際的視野から海事問題を見据えることのできるマネジメント能力の涵養という理解にまで発想の範囲をひろげて捉え、そして、これを実践するための先進的な次世代海事教育の構築アイデアを世界に先駆けて発信しなければならないのではないだろうか。

 そうでなければ、日本はいつまでたってもIMOにおいて他国の後塵を拝さなければならないことになる。いまこそ日本の海事社会が、世界に先駆けて新しい発想で海事教育先進国を巻き込んだ国際的な教育のあり方を提案し、それを実践するリーダーシップをとることが、IMOにおける日本の実力発揮のチャンスであり責務ではなかろうか。

 海事教育先進国である日本が、世界に先駆けて、国際的な海事社会における関係を意識し、国際的に問題を提起し、課題解決に向けて国際的に政策提言できるような立場になるためには、喫緊の課題として、海事に優れたマネジメント感覚とガバナンス能力を有する人材を育成し、そのための世界でもトップレベルの高度な教育を実践する必要がある。

この機会にコリドール構想を紹介し、次世代海事教育の実現を改めて提起したい。


海事教育維新