〇Inoue海事科学研究所(井上研究室)へのアクセス、コンタクト等については、トップメニューの【アクセス】ボタンをクリックしてください。
【海事社会・人材流】に、混迷する次世代海技者育成教育を展望した井上名誉教授のオピニオンを取りまとめました。
海事教育維新】に、海事教育機関が国際化を推進するための具体化案を提言しています。
〇【船だからできること】に、将来の海事社会における人材確保を展望した井上名誉教授のオピニオンを取りまとめました。
井上名誉教授著書のご案内をクリックすると「著書出版と購入のご案内」にジャンプします。

阪神淡路大震災から20年 

避難所船構想実現のステージへ 

―シンポジウム開催― 

元トルコ留学生 今住 章浩 v2

神戸大学大学院 ・ 現在ITUMFに交換留学中


imazumi_2_1最近本拠地を操船シミュレータのすぐ隣の研究室に移し、研究と講義の合間は、各種トレーニングに参加しています。主としてオペレータ補助として居座っていますが、時には研修者と混じって研修を受けたり、VHF交信に割り込んだりしています。なかなか話す機会がなかった研修者の方々の中には、「なんだこの日本人は?」と不思議に思っていた人もいることでしょう。

操船シミュレータでは、英語、トルコ語そして日本語と様々な言語での会話が繰り広げられています。(注:日本語は操船シミュレータの教育訓練技術を指導するJICAの長期専門家の方とCemilさんが用いています。私とCemilさんとの会話は少し複雑で、Cemilさんは日本人相手には日本語を話され、それに対して私は英語で返します。某友人曰く、大変奇異な光景らしいです。)操船シミュレータでの講義やトレーニングは、通常英語で行われます。乗船経験のある研修者はもちろんのこと、学生達も流暢に英語を操ります。何気ない世間話のときでもお互いの英語力向上のためだ(特に私…)と言って、私に気を使って英語で話してくれる友達に感謝!です。もちろん、トルコ語もゆっくりですが勉強中です。最近自画自賛していることは、相手のジョークにジョークで返せるようになったことです。こちらに来た頃は、ジョークを真に受けたり「お前何言ってんだ?!」と、ジョークを飛ばしにくい雰囲気を醸し出していたような気がします。今ではすっかり堅さも取れ、こちらではちょっとした変人扱いです。ひょっとすると勤勉な日本人のイメージを壊しつつあるかもしれません。。。

imazumi_2_2それでは、私達の職場であり、近代的な教育訓練施設であるシミュレーターセンタービルについて詳しく紹介したいと思います。ITUMFの所有するシミュレータ-センタービルは、JICAの協力を得て2003年2月に運用が開始されました。同ビルは、荘厳な歴史を抱くイスタンブールには似つかわしくなく(?) モダンなその外見は、2003年度
のトルコベストデザイン賞を受賞しました。私達にとっては、その外観が、どことなく神戸大学海事科学部の海技実習センターを思わせ、あたかも日本で勤務・勉強しているかのような錯覚を覚えずにはいられません。

同ビル内には、操船シミュレータ:SHS(SHIP HANDLING SIMULATOR)、機関室シミュレータ:ERS(ENGINE ROOM SIMULATOR)、GMDSSシミュレータ、レーダARPAシミュレータ、タンカーシミュレータ、VTSシミュレータ、CFD(COMPUTATIONAL FLUID DYNAMICS)研究室、コンファレンスルーム、CBT(COMPUTER BASED TRAINING)教室などがあり、学部学生の実習や学外の実務者に対する様々なコースを開講しています。各種コースには、私を含む本学部に所属する専門知識及びノウハウを持つキャプテン、チーフエンジニア、講師、助手がインストラクターとして日々熱心に指導しております。

imazumi_2_3ここでは、本研究室でも馴染み深い操船シミュレータについて、主に述べたいと思います。操船シミュレータでは、実務者を対象としたBTM・BRM研修、操船技術訓練及びVTSオペレータ研修、学部学生を対象とした操船訓練などを行っています。最近は、トルコ海事庁から派遣されている4人のJICAプロジェクトカウンターパートが、将来のディレクターを目指して日々ペレータ及びインストラクターの勉強をしており、その稼働率は極めて高いと言えます。私も彼らと共にシミュレータのシステム、オペレーションを勉強しており、各種コースに参加することによって、オペレータ、実務者、実習学生のそれぞれの側面から見た、操船シミュレータの効果的な用途及び評価判定のあり方について議論を交わし、その未来像を模索しております。


操船シミュレータの模擬船橋には、エンジンテレグラフ、操舵スタンド、レーダ、ECDIS、VHF、スラスタ、チャートテーブルなどを配備し、実船さながらの船橋を用意しており、半径7m、視野角240度に配置されたの巨大スクリーンには、7台のプロジェクターによって自船周囲の映像を投影しています。規模は神戸大学のSHSより大きいのが自慢です。また、これとは別に第二船橋もあり、主船橋と同時に同じ海域で相互に影響するシナリオを再現することも、独立した2つのシナリオを再現することも可能です。レーダARPAシミュレータ室にも2台のシミュレータ装置があり、研修の内容によっては、同時に最大4グループを引き受けることができます。オペレータコンソールでは、他船の針路・速力の変更、視程・波浪・雨天などの周辺環境の変更、タグボートの操作、アンカー操作、ムアリングウインチの操作などを行います。従って、接岸操船や投錨操船などの場合は、オペレータ操作卓で船首尾配置やタグコントロールの役割を担い、入港・狭水道操船ではVTSセンターの役割を担うことになります。言うまでもなく、我々インストラクターやオペレータはその知識と技術を習熟してなければなりません。万一、船舶が衝突したり、座礁したりした場合には、衝突音と船橋内にあるモニタにその状態が表示され、自船の操船の自由は失われてしまいます。


シミュレータで再現するシナリオには、イスタンブール海峡及びチャナッカレ海峡はもちろんのこと、その他のトルコの主要港、日本の主要港湾、マラッカ・シンガポール海峡等々数多くのシナリオが用意され、研修や実習のコンセプトに沿ったシミュレーションを行うことが可能です。 希望に見合うシナリオがない場合には、エディティングステーションにより、新たな地形や交通流などをクリエイトすることができます。

イスタンブール海峡のシナリオには、日本でも有名なブルーモスクやアヤソフィアの画像もあり、現実感があるとともにそのミナーレ(尖塔)は、クロスベアリングに適した顕著な物標にもなっています。よくよく考えてみると、イスタンブール海峡を通航する船舶は千年以上前から現在まで同じ物標を目印にしていたかと思うと感慨深いものがあります。

当キャンパスの操船シミュレータは、入港操船や狭水道操船訓練、航海計器の取扱い訓練だけでなく、その運航の安全性を評価するといったような研究にも使える、高い信頼性と広い応用分野をあわせ持った装置です。ソース・プログラムの開示により、必要に応じてプログラムの追加・改善を行うことが可能であり、今後この操船シミュレータを用いてどのような研究を行っていくか、そして海事社会にどのように反映していくかということがITUMFの抱える当面の課題です。

2005.4.18

トルコ - Turkey