Kobe
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「災害時緊急医療に対する海上支援」
― 新「深江丸」を海陸連携の拠点船に ― 神戸大学海事科学部 教授 井上欣三
来年は阪神淡路大震災から10年になる。災害時最も迅速になされるべきことは緊急医療と患者の移送である。津波の心配がないとなれば患者をいちはやく浜手に運び船舶を使用して近郊都市へ患者を搬送する。このことが実際に行えていたならより多くの尊い生命を救うことができたはずであった。阪神淡路大震災では、家屋の倒壊で体が圧迫されて発症するクラッシュ症候群の患者が数多くでた。この治療には緊急に血液透析が欠かせない。それ以上に慢性の透析患者は全国に24万人以上いる。それらは週2~3回の定期的な透析治療が必要である。そして、血液透析には専用の設備機器と大量の水と電気が不可欠である。被災地において水や電気の供給が途絶え、透析設備が破壊され、たとえ病院が大丈夫でも透析に必要な資機材の供給が途絶えれば、たちまち多くの患者の生命は危険にさらされる。それがゆえに、渋滞でマヒする陸路の代わりに海上ルートで透析患者を迅速に近郊の病院に搬送し、併せて透析治療に必要な資機材を船で運搬することはきわめて自然な船と医療の連携活動であり、これが実現すれば多数の患者の生命を救うことが可能となる。この想いは、このほど、日本透析医学会(内藤秀宗理事長)など透析関連団体が組織する「災害情報ネットワーク」と筆者が代表となって組織する神戸大学海事科学部「危機管理・海上支援ネットワーク」が連携し、災害時の透析患者搬送に練習船「深江丸」を派遣する提携により実現した。透析医療界からの要請と船側への指示は、筆者ら研究グループが開発した衛星通信を使った『海陸連携拠点システム』で仲介し、情報の収集整理、判断決定、指令伝達、船の運航安全管理までを一元的に統括、医療側と船側の機能の一体性を確保する。この災害時緊急医療に対する海上支援は、有事の際に即座に周辺海域で登録されている船舶を組織化し海上支援のネットワークを確立する「有事即応型体制」を念頭においている。この仕組みは、今後、大阪湾・瀬戸内海地域を最初のモデルケースとして、船と医療のタイアップ、船乗りと医者の協力体制の枠組みの中で全国に展開していくことになる。 神戸大学海事科学部深江キャンパスに設置した『海陸連携拠点』施設は、プロトタイプモデルとはいえ、既に医療側からの要請情報と船側から送信されてくる情報とを基地局において一括調整し、必要な指示・指令を適時適切に基地局から発信して、安全で効率的な海上からの支援を達成させることが出来る状況にある。但し、この『海陸連携拠点』基地局は、今は実験段階として陸上に設置しているが、震災などによる基地局の被災を考えれば、この基地局は船上に置くことが望ましい。それは、船は地震に強いからである。このことは、阪神淡路大震災で港湾施設は壊滅的な被害を受けたが、そこに係留されていた船舶は1隻たりとも被害を蒙ることなく震災後次々に自力で神戸港を出港していったことからも理解できる。船は生活機能、輸送機能に加えて途絶しない通信機能を有している。船舶特有のこれらの利点を積極的に活用する視点から、災害時緊急医療を海上から支援するシステムは船上においてすべての支援機能を総合化するものとし、今後は、*医療側と船側の海陸連携を「深江丸」を拠点として推進していくことを考えている。すでに「深江丸」は建造17年を経過しようとしている。次の代船建造のおりには、新 *「深江丸」に『海陸連携拠点』基地としての機能を搭載し、災害時緊急医療に対する海上からの支援を「深江丸」を中枢拠点として展開できるようにするとともに、災害時に最も重要となる医療支援、救急救命に積極的に貢献できるようにしたい。 筆者は震度7の激震を体験し、その後、阪神間の惨状の真っ只中に身を置きながら交通網の途絶と通信網の混乱がすべての緊急活動をマヒさせてしまうことを学んだ。しかし、国を挙げてのその後の緊急医療対策はヘリコプターによる患者搬送しか視野にない。このような災害時の緊急医療を即座に代替できるのは船による海上ルートの活用である。わが国のように長い海岸線をもつ国の危機管理においては、海に視野を開き、船舶であればこその機能を有効に利用する発想が重要であろう。 |
災害時医療支援船プロジェクト