「危機管理・海上支援ネットワーク」 透析医療界と連携

2004年9月1日、危機管理・海上支援ネットワーク《代表:神戸大学海事科学部井上欣三教授》と災害情報ネットワーク《代表:日本透析医会 医療安全対策委員会杉崎弘章委員長:東京都千代田区》が相互連携をスタートさせました。このような船と医療界の具体的な連携の取り組みは始めてのケースである。

災害発生時、日本透析医療界が組織する「災害情報ネットワーク」が神戸大学海事科学部井上欣三教授らが組織する「危機管理・海上支援ネットワーク」にインターネット情報を通じて応援を要請し、それを承けて、深江丸《神戸大学海事科学部附属練習船450総トン》が透析患者の搬送ならびに透析資機材の運搬を行います。

医療側からの要請と船側への指令は、井上欣三教授ら研究グループが開発した『海陸連携拠点』システムで仲介し、情報の収集整理、判断決定、指令伝達、船の運航安全管理までを一元的に統括、医療側と船側の機能の一体性を確保します。

 

「災害情報ネットワーク」

この『災害情報ネットワーク』は、厚生労働省健康局、日本透析医会、日本透析医学会、日本臨床工学技師会、透析関連医薬・医療機器メーカー等185組織・代表者で構成されており、地震や風水害などの災害時、医療安全対策に関する情報交換をおこなう連絡組織として活動している。 (戻る)

「危機管理・海上支援ネットワーク」

井上欣三教授研究グループは、震災直後から船舶活用の有効性を検証するとともに、一方で、災害時緊急医療の面で海上からの支援が有効に機能しなかった点への反省から、今後に向けての海上からの緊急時災害支援のあり方の提言として《商船教育機関練習船ネットワーク》の構築と運用を呼びかけてきた。(平成7年12月)

平成12年の年末が近づく頃、「日本透析医会の総務委員長兼危機管理委員長(当時)の内藤秀宗先生が震災などの緊急時に透析資材の運搬や患者の搬送に船の力を借りたいと訴えておられる。」との紹介があった。平成12年12月13日、内藤先生と面会し、透析医学界と「深江丸」との連携について話し合う機会を持った。その後、本学部において、井上欣三教授が代表となって『危機管理・海上支援ネットワーク』を組織するとともに、災害支援に「深江丸」を活用するための運用内規を作成した。(平成13年5月)

それ以来、

【1】有事に即応できるfleet(プレジャーボート、フェリー、漁船、パイロットボート、練習船、等々)の登録とその拡充

【2】有事に即応できる陸上情報、海上情報、海陸連携情報通信能力の向上

【3】有事に即応できる海陸連携の組織化、指令中枢としての機能実現を目指して研究活動を続けている。

主な組織メンバーは以下のとおり

神戸大学海事科学部 「危機管理・海上支援ネットワーク」

代表:井上欣三(海事安全管理学講座 教授)
          廣野康平・臼井英夫,世良亘(同講座助教授)
         矢野吉治(海事科学部附属練習船深江丸船長、助教授)(戻る)

『海陸連携支援システム』

井上欣三教授研究グループは、平成13年度以降、医療側からの患者搬送・医療・資機材運搬ニーズを集約するとともに、近郊の病院における患者受入れ体制を把握して、支配下船隊を効率的に配船・指揮し、そして、それらの運航状況をモニタリングしながら安全を管理するための指令中枢機能が不可欠であるとの認識のもと、災害時緊急医療支援の機能総合化のための『海陸連携支援システム』を構築、実現する研究を行ってきた。『海陸連携拠点』システムは、衛星通信回線と地理情報システムを活用する海上支援ネットワークの指令中枢機能実現のためのプロトタイプモデルである。この装置は、現在、神戸大学海事科学部総合学術交流棟4階プロジェクト実験室に設置されている。(戻る)

海上支援ネットワーク『海陸連携支援システム』の概念 (PDF)



海事科学部総合学術交流棟4階
クト実験室に設置された『海陸連携拠点』システムの施設



【参考】

【なぜ透析医療界との連携か?】

震災時、柱や梁にはさまれて筋肉が圧迫されることからくるクラッシュ症候群の患者治療には緊急に血液透析が欠かせないが、それ以上に、腎臓移植以外に完治が望めない慢性の患者は全国に24万人以上いる。それらは週2~3回の定期的な血液透析治療が必要であり、そして、血液透析には専用の設備機器と大量の水と電気が不可欠である。被災地において水や電気の供給が途絶え、透析設備が破壊され、たとえ病院が大丈夫でも透析に
必要な資機材の供給が途絶えれば、たちまち多くの患者の生命は危険にさらされる。被災地からの患者移送さえ実現すれば多数の命が救える。それがゆえに、渋滞でマヒする陸路の代わりに海上ルートで透析患者を迅速に近郊の病院に搬送し、併せて透析治療に必要な資機材を船で運搬することはきわめて自然な船と医療の連携活動である。また、緊急時における透析患者の救命医療活動を目的とした海上からの支援は、公共性から見ても大学の練習船である「深江丸」を使用するに十分な必然性がある。

【きっかけと経緯】

(社) 日本透析医学会(内藤秀宗会長)は、平成16年6月18日から20日までの3日間、第49回学術集会を神戸ポートピアホテルで開催し、今年は、阪神淡路大震災から10年を迎えることと神戸開催であることを契機に、災害時のクラッシュ症候群の治療に欠かせない透析医療と緊急を要する患者搬送や透析資機材の輸送問題、情報機能問題などの側面から「医療と危機管理」に関するシンポジウムを開催した。 井上欣三教授は、このシンポジウムにパネリストとして招かれ、パネルディスカッションにおいて、海上ルートによる患者搬送・医療資機材輸送による災害時緊急医療に対する海上からの支援の重要性と海上支援ネットワーク指令中枢基地の必要性を呼びかけた。そして、この時期までに製作を終えていた「深江丸」と陸上基地を結ぶ有事即応型海陸連携指令中枢機能を実現するためのプロトタイプ拠点モデルを特別企画展示に出品して、海上支援ネットワーク指令中枢基地構想をアピールした。このシンポジウムがきっかけとなって、『災害情報ネットワーク』から『危機管理・海上支援ネットワーク』に対して正式にネットワーク連携の申し入れがなされた。この正式申し入れを承けて『危機管理・海上支援ネットワーク』では、災害支援に「深江丸」を活用するための運用基準の改定(2004.8.1)をおこなうとともに、この申し入れを正式に受け入れることとした(2004.9.1)

【これからの活動予定】

10月中旬以降《予定》:透析患者の海上搬送を想定して「災害情報ネットワーク」と「危機管理・海上支援ネットワーク」および「海陸連携拠点」システムの総合的な連携運用デモを行うとともに「深江丸」の災害支援出動訓練を同時進行させる。場所は神戸大学海事科学部総合学術交流棟。

災害時医療支援船プロジェクト