(井上先生の定年退官(2009.3月末日)後における「新現役」としてのご活躍の様子をお知らせするページです)

2009.10.20 井上先生からのメッセージ『研究生活を振りかえって』

2009年3月31日の定年退官を機に、これまで聞かれたこともない質問をなげかけられてとまどったことも多くありました。例えば「教育者に必要な資質は?」との問いには「信頼・畏敬・愛情」と答えました。そして、「座右の銘は?」には「急がば回れ、損して得とれ」と答えました。さらに「信条は?」と聞かれ「守るものをもたず信念をつらぬく」と答えました。これらは日頃からの思いを正直に伝えたもので答えに窮することはありませんでした。」

しかし、「退官後これからどうされるのですか?」の問いには「今しばらくは充電しながら研究者として自適の道をさぐります」と答えるのが正直精一杯でした。実はあのときそう答えた心の中には「新現役」という習いたての言葉が脳裏をよぎっていました。

高齢者社会における人間発達科学の研究分野では「新現役」という言葉があるらしいです。これは「定年で第一線は退くが、それまで培ってきた経験や知識・技術を社会に役立て、新たに現役と同じような活動をしようとする生き方」という意味らしいです。定年退職は終わりではなく、次への人間発達過程の新たな出発だというわけです。私はこの「新現役」という言葉に勇気を得て、それ以後、自分なりの『新現役への途』を探りつづけていこうと考えるようになりました。

しかし、具体のアイデアがあったわけではありません。その後、何が自分に適する途なのか思い巡らしてきました。自分なりの『新現役への途』をデザインする作業は、容易なものではないと感じています。もっとも痛切に感じるのは、すべての肩書きから離れて新たに現役時代と同じように社会を説得できるためには、そのひと固有の真実の力がどれほど身に付いているかが問われるという事実です。その意味から、今からでも遅くはないとの信念をささえに、自分固有の新たな実力養成に一念発起、意欲を湧かせています。そして、「2年・5年・10年の計画」のもとで、自分を支えてくださる方々と共に、自分を磨きながら、自分なりの『新現役への途』のデザインに邁進しているところです。

「2年・5年・10年の計画」は私が勝手に定めたデザインタームです。これは、まず定年後の2年間は企業や組織に従属せずフリーな立場で次の5年に打ち込める具体の姿を見つけだす。そして、次の5年の成果を最後の10年の生き甲斐とする。という考え方です。そのようにできるかどうかはわかりませんが、とりあえず今は、「海事教育、海事社会、それらをつなぐ人材流」をキーワードに、社会、学界からの活動依頼の要請に応じつつ、自分なりの「新現役への途」を探す努力をつづけていいます。

そのような折り、日本航海学会から「これまでの研究生活を振り返る文章を」との執筆依頼がありました。お世話になっている航海学会へのせめてもの恩返しになるならと執筆を引き受けることにしました。以下の文章は、日本航海学会への投稿文を再整理したものです。

日本航海学会 NAVIGATION No.171 投稿原稿再整理版『研究生活を振りかえって』(PDFファイル)

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